こちが吹いている。
台風一過、この季節には珍しい東からの、爽やかな風。
窓をいっぱい開けて、強すぎる風に部屋の中があらされてしまったけれど、
湿った空気を一つの風が一掃してくれた。
窓を開けて感じる風がなんだかなつかしくて。
思わずお母さんが居るところで懐かしいねと呟いてしまった。
風が強いから我慢していたんだけど、やっぱり我慢できずに2時過ぎくらいに散歩に出た。
自転車はおあずけ、私はすぐ風に流されちゃうんだよな。
堤防を上って、風に髪を持っていかれて、
どこか懐かしい風と匂いを、私がどこで体験したのか思い出せずに居た。
この風は懐かしい。でも少し違う、東から吹くこの爽やかな風を遠い昔私はどこかで肌に感じていた。
どこで?どんな?あともう少し。
匂いが少し足りない、もう少し甘く、辛い匂いがしていたはずだ。
海の反対側から流れてくる風は乾いていて、
海に居ても塩辛い匂いがしない。
もう少し、どこか甘くて、それでいてしょっぱいかんじ。そんな匂いを私はどこかでかいでいたはずなんだ。
その匂いをずっと探してみたけれど、日焼け止めの匂いが私を邪魔して、それはかなわなかった。
カブトムシを入れた水槽の、スイカが臭くなったときのような匂いがした。
野菜が湿った土と水に濡れて暑さに発する、あの甘ったるい、発酵したような匂い。
カブトムシの水槽はいつもそんな匂いがしていたような気がする、湿ったカブトムシの水槽の匂いが、どこからか流れてきて、
堤防の下をのぞいてみると、水に浸かった沢山のできそこなったサツマイモが棄ててあった。
そこにはつがいのハトがいて、
私の小さな動きに連動して、二度、とんだ。
私はそこを過ぎて、歩きすぎたことに気がついて、引き返した。
また甘ったるい匂いをかいで、ずっと考えていた。
相変わらず私の日焼け止めが邪魔で、匂いを思い出せない。
東に顔を向けてじっと目をこらしてみたけれど、見えそうな昔の景色は、浮かんでこない。
コンクリートに目を落とした。曇った空から落ちてくる光は弱くて、
なにか思い出せそうな気がして顔を上げたら、びゅうっと強い風がふいてきた。
私の視界に入ったのは、大きな、ひまわり。
日差しは弱くて。
私の視界を掠めたのは、黄色のTシャツ。
墨のにおい、汗のにおい、きつい日差し、まぶしくて見えない道路、汗だくになって見た、ひまわりと、緑、
私の髪から滴る、水なんだか、汗なんだか、わからない水滴。
夏休みに小さな自転車をこいだ。
まぶしい日差しの中のお習字の教室からの帰り道。
まぶしい日差しの中の学校のプールからの帰り道。
おばけみたいに大きなひまわり。
アスレの森で遊んだ。
乾いた風が、汗と太陽の匂いを伴って私の帰り道を阻んでいた。
堤防を降りるとき、墨の匂いは、乾いたインクの匂いに変わった。
誰かを見て、そして私は、
その子がこの風を懐かしむ時はこの場所は
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