私の中に浸入する。
水は全ての起源だとか、水は形を変えてどんなものにでもなじむだなんて、嘘だと思う。
だって体温というものは明らかに私のもので、例えば内臓だとかね。
私の体温を持ったものは全て私のもので、私にしっくりと馴染むわけなんだけれど。
今私の肺っていう内臓に流れ込んでいる水というものは、とても冷たくて、はっきり言って、「異物」以外の何物でもない。
暴れても重い服が腕の動きを邪魔して、足だって凄く疲れた。
必死で動かしているはずなのに体は浮いては沈み、一瞬顔が出て、死にたくはないからとりあえず酸素を吸おうと思ったって、肺に入った水がじゃまで、一生懸命吸っても酸素が入ってこない。
ひどくない?こんなに必死で顔出してるのに。私のイメージじゃこう、溺れかけても顔さえ出てれば助かる…はずだったのに。
吸ったって呼吸できないなんて、想定外だ。こんなんじゃ直ぐに苦しくておぼれてしまう。
思ったとおりで私はどうにもできずに何度も沈んだ。何度もっていうのは、一応、ちょっとは頭が出るくらい浮くこともたまにあったということだ。
半端なく苦しい。誰かに助けてほしくて、引き攣る喉から声を振り絞ったけど、また水を飲んでしまった。
叫びが水の中でくぐもって、私は沈んだのに、泡はこにくたらしく空へ上っていく。
何もしないで浮いていく。
自分で立てる波と泡にさえ苦しめられて、悔しくてもどかしい。ああ誰か助けて、なんてまた思うけど、残念ながら胸が苦しくて考える余裕もなくなってきた。
意識が霞んできた。苦しくて冷たくてたまらなかったけど、それも何だか、わからなくなってきたきがする。
もうだめだ、と思った。だって私の体のなかは、もう「異物」でいっぱいで、内臓さえすでに私じゃなくなっていた。
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