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音楽・絵・文章・打鍵。 好きなものはたくさんあるけどほどほどにいろいろやってく蘭々の日記です。同人要素たまに。女性向けだよ。注意。
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二つ目は、母屋のおじさんが死んだ。溺死だ。

私は海岸にルンちゃんを埋めに行っていた。できるだけ誰にもみつからないようにと深く深く穴を掘っていた。
漸く埋めるって時になって、何だかルンちゃんが暖かいような気がして。
もちろん、明らかに硬直して、心音もないし、呼吸もしてないし、
死んでいないはずはなかったのだけれど、掌で包んであっためて、マッサージしていた。
ルンちゃんが本当に死んでいるのか私にはよくわからなかった。
風が冷たくてとても寒かったから、掌に包んで、海岸に座って、明るかった景色がひどく明度を落としてきたことに気付くまで、ずっと暖めていた。
けれどやっぱり生き返りはしなかった。やっぱりルンちゃんの動きは止まっていた。

これは私の部屋で、ルンちゃんをなでながらないたときにも思ったのだろうけど、
この自分の姿は他の人が見ると、とても悲しいものなのかもしれないと思った。
生き物の死を悲しむものの姿として、一般的に、私はとても悲しいことをしているように見えるのかもしれないと思った。
それは、私が主体となったことがないから気付かないだけで、実際これは、悲しいことなのかもしれないと思った。
死んだペットを手に抱いてずっと泣いたり、もしかしたら生き返るかもしれないと、埋める直前になって埋められずにマッサージをはじめたりするのは、悲しいことなのかもしれない。
泣けることなのかもしれない。だけど私は、誰かがそれを悲しいことだと受け取るほど、誰かがその行為に「感情移入」して泣いたりするほど、悲しくなかったのではないかと感じる。
ただ、そう見える、そう例えば心なんてものはおいておいて、効果的なレトリックをこらした、作品のようなものなのかもしれない。
そしてそう感じている私は、それを実際は「悲しいこと」と言うべきであるということを知らずに、ただ理解できずに、悲しくないのかもしれないなどと、馬鹿をいっているのかもしれない。


私は、最初泣いた理由をたずねられると、私にもわからないのだけれど(可哀相というきもちはとてもあった)
純粋に、死んでいるということがわからず、マッサージをしていた。
私は他の人がいないと、おかしいのではないかと思われるほど何かをずっと繰り返したり、ばかげたことを、ばかげていると思わずにずっとやったりする。
だから私の行為はばかげていたのかもしれない。ばかげていたかもしれないけど、私はわからずに、
そうだな、よく思うのは何もしらない子供のように。
「生き物は死んだら生き返らない」というのが一般的なのだろうけど、それをちゃんと信じない子供のように、小さいからだを暖めていた。
子供って限度がわからないよね。ずっとやったって仕方無いこととか、できるはずのないことを、何度でも何度でもやるよね。私ってそれなんだと思う。子供とおなじで、「やったって仕方無い」と、「できるはずがない」ということが、純粋にわかっていない。

あと何分でつきますかって聞かれたときに、検討もつかない、そんなときの気持ちににている。
全く基準がわからない。この料理には砂糖をどのくらい入れればいいのだろうか?全く検討がつかない。
あのひとはどこにいますか、全く検討がつかない。意味のわからないたとえだろうけど、このときに少し似ていると思うんだ。

そして母から電話があった。母には早くかえってきなさいね、絶対にね、って言われていた。
私は海が好きで海岸に長い間居座ったりする。流石に冬で、寒いし、変な人が居ると困るから、早く帰ってきなさいといわれていた。
けど私はルンちゃんを暖めていたから存外に時間がかかって、私が家を出たのと同じに買い物に出かけた母が帰宅してしまって、私に電話をかけてきた。
ルンちゃんのお墓を作っていた私はかえるから早く電話を切ってといって、切ってもらって、かえる準備をした。
暗くなってきて怖かったし、走って自転車のところまで行った。
自転車を物凄いスピードでこいで、坂を下っているのにまた自転車をたちこぎして、慣れた港を通り過ぎて、帰った。
港には自転車があったようだけど寒々としていて、人気はなかった。
たまにそこに船に乗った人が居たり、雑談をしたりしている姿があって、たまに若い大人たちが横を通る私を見るのだけれど、その視線はなんとなく、居心地の良いものではなかった。
凄いスピードで通り過ぎながらも其処にその視線がないことをきちんと認めて、今日は寒い日だなと思った。
何か変な人やこわいひとにあったらいやだなと思いながら、人気がすくないことを呪った。
そう私はたしかにあのとき、1,2人は、人間が居るような気がしたんだ。
だからその1,2人が加害者になるのではないかとおもって、恐ろしくおもいながら、猛スピードで港を過ぎていった。


そして家でパソコンをしていると、救急車の音が聞こえた。
港の近くの造船場ではよく事故か何かがあるようで、(そのあたりは結構こわいひとが多いのであまり突っ込んで考えないようにしている)頻繁に救急車のサイレンが聞こえる。
ただずっとなりやまない。通り過ぎないのだ。
父が窓を開ける気配がした。たまに近くでサイレンが聞こえるとそうやって父は周りの様子を伺ったりする。
そしてその後すぐに父の携帯が鳴った。
こたえる父の声はつよしさんが居なくなった時と同じ色を帯びていて、私は扉を開けて、何かあったのと聞いた。
母屋のおじさんが港に落ちたのだという。
私は一瞬視界がひっくりかえりそうになった。
どうなったのかわからない、ただ家の中が騒がしくて、しばらく正しい情報はこなかった。
父さんは救急車から電話をかけてきて、家中の人が外へ出て、いなくなった。
母は泣きながら帰ってきたようだった。玄関から話し声がきこえていた。
下りていって聞いたら、おじさんが浮いていたといわれた。おじさんは死んだのだといわれた。
いつ落ちたのだろう、こんな時間に見つかって、出かけてから随分時間がたっていたのだろうと。
誰にも見つけてもらえなかったのだろう、寒かったのだろう、苦しかったのだろう、母はいろんなことを言って泣いていた。
あんなに病院に行って、体にきをつかっていたのにと。

誰にも見つけてもらえなかったのだろう、寒かっただろうにと泣いてる母の横で私だけ頭と体が分離しそうになった。
暗くなる直前、私は、港の前を、猛スピードで、走っていったよ。
猛スピードで、水の中になんて目もくれずに、――おじさんは港の奥のほうで浮いていたというけれど、私は暗くなる直前、人気のすくないことを不安に思いながら、走っていったんだよ。

悲しいって思わないように振り切ろうと、何か恐ろしい気配から逃げ切ろうと、母に怒られないように早く帰ろうと、凄いスピードで通り過ぎたんだ。
そこでおじさんが溺れていたんだ。みんなが話をしていた、「まさかあのひとが暗くなってから行かないだろう、暗くなる前に行って、そしうして―…」

悲しいとかそれ以前に、もしおじさんが溺れながら、…きっと私が通った橋は港のどこからでも見渡せる。
まわりでたった一人、自転車に乗って通り過ぎる私に向かって、助けを求めていたとしたら?
必死で私に助けを求めていたとしたら?
もし私がきづいていたら、おじさんは死ななかった?
今、かきながら、ようやく涙が出てきた。おじさんは私を見たんじゃないだろうか、私が助けられたのではないだろうか、私はものすごく、何て残酷なことをした?
どうしよう、おじさんが私を見ていたとしたら、苦しかっただろうに、さむかっただろうに、たったひとり、人間をみつけて、助けてほしいと、必死で、さけんでいたかもしれないのに、
通り過ぎていった、物凄いスピードで、

だめだかけない、

死にたくないのに そんなことで死ぬことはないのに
誰かの命が失われたことより、「死にたくない」という叫びが、悲しすぎるよ。
わたしはそれのほうがおそろしくてつらくてくるしくて、おそろしくて、おぞましくて、それがだれにもとどかずに、
締め付けられるような胸の苦しみと、体温を帯びた肺に似つかわしくない冷たい水、そんな異物が入り込むのとおなじに、
必死の叫びさえ水の中にしずんでゆくだなんて



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